亡き馬の嘶聲
どんな伝承か
これは美濃の話である。岐阜から七、八里のところに芥見という村がある。この辺りでは、馬に灸治をしてから三日目、七日目、二十一日目のうち一日は血返しといって休ませないと凶事があると言い伝えられていた。村の某が灸治して七日目によい仕事があったので働かせようとした。馬子はぜひ休ませてくれと言ったが、欲深い主人は耳も貸さず重荷を背負わせて出て行った。村から東へ行く道に日野坂というのがある。そこへ来かかると馬は忽然と斃れた。それから後、そこへ馬が来ると昼でも夜でも馬の嘶きが聞こえる。姿は誰にも見えないが、引かれて行く馬は必ず鳴き合う。馬子は、馬の亡霊が留まって飼主の無慈悲を訴えているのだと言っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異・昭和初期)
磯清『民俗怪異篇』。馬・城・猫・灯の占・狼・落語の怪談という主題ごとに、各地の怪異伝承を随筆風に集成する。馬の怪では、馬を悩ます馬魔(ギバ)とその禁厭、大津馬神社と魔女の素性、古戦場・城趾に出る首切れ馬と濁ヶ淵の主、袖ヶ瀧山の夜行さん(左片袖の姫)、鈴鹿の坂で物言った馬の人語(寛政年中)、馬と恋の執着、徳川家が白馬を禁物とした話。