疫神にとりつかれて死んだ少女
どんな伝承か
正嘉年間のころ、飢饉と疫病が国じゅうに広がり、多くの死者が出た。武蔵国与野郷の信心深い名主は、病を避けようと家族や使用人に念仏を勧め、加わる者の名を連ねた番帳を道場に備えた。その夜の夢に、額に八つの目を持つ者や角の生えた者など、異様な姿の疫神が門前に押し寄せた。名主が皆で念仏を始めたと訴えて番帳を示すと、疫神は喜んで一人ずつの名の下に判を記した。よそにいる一人娘の名を後から加えたいと頼んだが、返事のないまま目が覚めた。翌朝番帳を開くと、焼き絵のような判が各人の名の下に本当に残っていたが、娘の名の下だけは空いていた。家の者は皆無事に済んだものの、その娘だけは疫病で命を落としたという。
原典より
かくして、その主人の家内は老人もこどもも、みんな疫病にかからず難をのがれることができましたが、その少女だけはかわいそうに、疫病にかかって死んでしまったということです。—— 与野市史 民俗編――伝説・昔話(与野市(編)・与野市史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
与野市史 民俗編――伝説・昔話(与野市(編)・与野市史)
『与野市史 民俗編――伝説・昔話』は、与野市史の民俗編から「一〇 伝説・昔話」の章だけを収めたものである。武蔵国足立郡与野にまつわる伝説と昔話二十話を、疫神や弘法大師、源頼義の伝えから、お化け地蔵・一つ目大入道・天狗隠し・猫橋のいわれなどの怪異譚まで、おおむね時代順に並べる。十五話は岡安茂生編『与野の伝説』に、ほかは『埼玉県伝説集成』『大宮市史』に拠り、再調査して題名や内容を書き改め、多くの話の末に注を付す。