営門に響いた亡霊の足音
どんな伝承か
八甲田連峰を背に、弘前市の郊外には旧軍の軍人たちの墓が整然と並んでいる。中央にひときわ大きく立つのは、無能で横暴な上官だったと伝えられる山口大隊長の墓で、神成大尉の墓は一段小さく右に控える。日露戦争に備えた雪中行軍の人体実験で、青森歩兵第五聯隊の兵たちは吹雪の八甲田山中で次々に凍りついて死んだ。死んでいく順も葬られ方も階級の序列に従い、墓石に刻まれているのは死んだ日ではなく死体が見つかった日である。遭難の直後には、第五聯隊の営門にしばしば亡霊の足音が響き、衛兵を恐怖のどん底に叩き込んだという怪談が残っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路・幽霊・文学史・昭和)