生きた妻を降ろした恐山の口寄せ
どんな伝承か
津軽のイタコは、数十種にのぼる長文の語りを数年がかりで師匠から口伝えに覚え、さらに暗い密室に一週間ほど籠って食わず眠らず、数珠をまさぐり梓弓を叩いて祈り続ける。肉体が疲労の極みに達して意識が朦朧となり、言葉にならぬ言葉を口走ったとき、初めて一人前のイタコと許される。著者は数年前、恐山大祭の見物に出かけ、降霊術に優れると評判のイタコに、生きて元気な妻を死んだと偽って口寄せを頼んだ。イタコが数珠を繰って呪文を唱えると、たちまち死んでもいない妻の霊が降りてきて、くどくどと語り出した。著者は落胆し、帰宅して妻からこっぴどく叱られたと書き添えている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化けと幽霊(大高興・1978年(昭和53年))
『お化けと幽霊』は、大高興が昭和五十三年に青森市の北の街社から出した、お化けと幽霊と心霊現象の解説書である。仮死からの蘇生や霊魂論に始まり、青森県内を中心とする心霊写真の実例、こっくりさんなどの霊界通信法、著者や知人が語る幽霊の体験談、江戸時代の『北越奇談』を著者が現代文に訳した天狗や鎌鼬の話を収める。問答の形でお化けを語る節、幽霊の存否論・分類・人相学、心理学者による心霊現象の否定を経て、巻末に心霊用語の解説を付す。