布川の鳩麦煎餅
どんな伝承か
疣から四年ほど後、親に別れて関東の土を踏み、茨城県の西南隅、布川という町にしばらく住んでいた。その頃がちょうど鳩麦煎餅という、紙の筒に入った丸い煎餅が人気に投じて盛んに売り弘められた時で、その製造元は布川から五六里の、たしか鳩崎という小さな町にあった。ハトムギという名称がいつ頃いかなる人の群によって命名されたかを語り得る人はいない。この煎餅の商標に二羽の山鳩を向い合せたのが、中古の男山の神号の文字や熊谷家の紋所などを連想させて感じがよく、半ばはこれが人気の種となって東京にもその以西にも売れて行き、頼まれもせぬのにこれを煎餅原料の名と認めてくれる人が多くなったのかと思う。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第1巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第1巻』を全451話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。