牛の沓が吉野川へ流れ出た竜宮の窟
どんな伝承か
大和の宇智郡、いまの五條市滝町の車谷に接する山の中腹には、竜宮の窟と呼ばれる場所がある。窟には霊泉がたたえられ、水が冷たいので夏は薄い霧が立ちこめ、いかにも神秘めいた気配が漂う。かたわらには安政二年に建てられた花立が残る。この泉に牛の沓を投げ入れたところ、一・五キロほど離れた吉野川の土場という所へ流れ出たと大和の伝説は伝えている。東大寺二月堂の閼伽井の水が若狭に通じているという話と同じで、井戸や沼へ投じた供物が遠い海へ運ばれると信じる例は各地にある。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語・昭和(民俗))
関敬吾編『日本人物語5―秘められた世界』。日本の生活文化に潜む秘密・境界・異界・怪異を主題別に集成する。