歌で野火を鎮めた業平と野火止の塚
どんな伝承か
野火止という地名は、『伊勢物語』に描かれた在原業平の東下りと結びつけて語られてきた。業平が娘を連れて武蔵野へ逃れたところ、追っ手が野に火を放ち、女が「けふはな焼きそ」と詠むと、その歌の力で火が燃え止まったという。文明年間にこの地を通った道興准后はすでに野火どめの塚の名を書き留めている。江戸期の記録では、田面の長者と呼ばれた郡司長勝の娘皐月ノ前が業平と館を抜け出し、長者の放った野火を歌で鎮めたが、二人は長者の家の者に見つけられて館へ連れ戻されたとも、京から逃れた姫君花鳥が追っ手の火に行く手を阻まれたとも伝える。火の止まった所が野火止で、平林寺の裏山の九十九塚と業平塚がその塚にあたるとされる。近年の民話では、二人は火を逃れて無事に京へ帰ったといい、塚のまわりを息をつかずに三度回ると、塚の上に長勝の娘の美しい姫が現れるという。塚には、昔の姫を見たさに息を止めてめぐろうと詠んだ歌も伝わる。
原典より
けふはなやきそと詠ぜしによりて、烽火たちまちにやけとまりけるとなむ。—— 新座市史 第4巻(民俗編)――伝説と昔話(新座市(編)・新座市史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新座市史 第4巻(民俗編)――伝説と昔話(新座市(編)・新座市史)
『新座市史 第4巻(民俗編)――伝説と昔話』は、新座市が編んだ市史の民俗編のうち、第四章「伝説と昔話」にあたる部分である。野火止の地名と在原業平の東下りを結ぶ伝説を『伊勢物語』や『新編武蔵風土記稿』などの記録とあわせてたどり、妙音沢・かしらなし・小僧ヶ淵・強清水などの場所をめぐる話、観音や地蔵の霊験・縁起の話を取り上げる。節ごとに解説を置き、『こども広報にいざ』などに載った再話や古老からの聞き書きを引く。