書物を返しに来る
どんな伝承か
某年五月九日の夜、大阪市の某図書館で、司書のBのもとへロイド眼鏡をかけ頬のこけた二十七、八の青年が来て、Nさんはいないかと言い、Bが貸していた大切な書物を差し出して、名も告げずに姿を消した。頁を繰ると書物の間から生々しい血がぼとぼとと落ち、床にも赤い物が点々と滴って見えたが、見直すと書物に異状はなく、床の血は古いインキであった。翌日Nに話すと、Nは顔色を変え、Mがトラックに轢かれて死んだという葉書を出した。Bが書物を受け取ったのはMの死んだ翌々日であった。Mはその年の七月、高師の浜の海水浴場の脱衣場にも現れ、老人に今日は伴れがあるからまた来ると言い残していた。
原典より
* 華表の額の怪 (176)* 天井裏の妖婆 (178)* 老婆の幽霊 (179)* 東京の納豆 (181)* 善方寺の符籙 (184)* 箱を背負った女の姿 (186)* 姉の死 (187)…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫版・決定版・昭和13年編纂(1938年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫版・決定版・昭和13年編纂(1938年))
日本怪談実話(田中貢太郎)/幽霊と怪光の実話/怨霊と祟り・因果/死の前兆と怪音/各地の怪異実話