文・田辺貞之助「深川育ちの深川ばなし」
どんな伝承か
語り手が小学校の高等二年ぐらいの頃、福谷(真庭郡勝山町)に仲間という屋号の家があり、哲雄という男がいた。朝鮮のタイコウというところへ兵隊に行き、銃剣で突き合いをして肺を痛め、胸膜炎で二年の満期を迎えて戻ったが、福谷で悪化して死んだ。久世から嫁いだ妻のヒデも肺を移されて間もなく亡くなった。哲雄は寝ていた頃、自転車を買ってもらった語り手を羨み、乗れないのがつらいと男泣きした。それで親父が哲雄にも自転車を買ってやり、納屋に入れておいた。ところが哲雄が死んで何日か後から、納屋の自転車が毎夜鳴った。その家の者にしか聞こえなかったが、部落でも評判になり、大勢が自転車のリンの音を聞いたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成)
松谷みよ子『現代民話考 ― 偽汽車』を小話単位で全525話収録。汽車・船・自動車などの乗り物にまつわる現代の民話・怪談を全国から採集。狐狸が汽車に化ける偽汽車、船幽霊、タクシーに乗る幽霊などを地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明359話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。