明治三十幾年であった
どんな伝承か
明治三十幾年、豊川鉄道が初めて長篠へ通じたときのことである。川路の正楽寺森の狸が、線路工事のために巣穴を荒らされた仕返しに、ある晩機関車に化けて走って来て、こちらから行く汽車を驚かせた。初めのときは機関手もうっかりして慌てて汽車を止めたが、次の晩には向こうも同じように警笛を鳴らしたけれども構わず走らせると、その機関車はふっと消え、何やらことりと轢いたと思っただけで何事もなかった。翌朝見ると線路に古狸が一匹轢かれて死んでいた。それを線路工夫が拾って煮て食ったという。川路の停車場から少し長篠寄りの、山をひどく掘り割った所だとされる。それから正楽寺の森へは、ちっとも狸が出なくなった。
原典より
北部陸中海岸は昔から貧しく、無理して漁に出ることが多かったし、明治以来何回もの津波の大被害にも遭っており、海難事故も多いところです。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和〜平成)
松谷みよ子『現代民話考 ― 偽汽車』を小話単位で全525話収録。汽車・船・自動車などの乗り物にまつわる現代の民話・怪談を全国から採集。狐狸が汽車に化ける偽汽車、船幽霊、タクシーに乗る幽霊などを地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明359話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。