便所の中で見たと打ち明けた長女
どんな伝承か
押入から手が出たと末娘が言ったその日、長女は父にもう一つのことを打ち明けた。お父さん、あたしも黙っていたけれど、そのおばさんの姿を、引越した晩に、はばかりの中ではっきり見たのよ、黙っていただけよ、と震えながら言うのである。福岡さんは問い返す元気もなく、詳しい話を聞くこと自体が怪物の手に乗せられるように思われた。子供たちの恐怖はこの二度目の出来事で一層深刻になり、家を越そうと父に嘆願し始めたが、福岡さんは自分の精神力で怪物を圧倒しようと堅く決意して子供たちを宥めていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
夏の夜の怪談(新天地 1943年6月号・昭和18年(1943年))
昭和18年(1943年)発行の『新天地』6月号に掲載された怪談。福岡県出身の灸点師・福岡さんが東京都大井町の借家に引っ越した初夜、三歳の末娘が廊下に知らない若い婦人がいると泣き叫ぶ。その後も長女と妻が台所やトイレで同じ女性と乳幼児の姿を何度も目撃する。和尚の霊感により、数年前にこの家で貞操問題から夫に妻子ごと殺害された女性の霊であることが判明。家主の秘密の告白で事件の真相が明かされ、寺での供養により幽霊の出現は完全に止む。