新小路飛頭蛮の事
どんな伝承か
今より三十余年ほど前、新小路の西の端、北側の某の宅は街に沿って建ち、障子が街に臨んでいた。その頃、夜半過ぎに路を行く人が、時折その家の女が格子に臨んでいるのを見たが、その家の妻なので格別怪しいとも思わなかった。ある夜、主人が目を覚まして妻の寝床を見ると、胴体だけがあって首がなく、線のようなものが頭から延びていた。主人は大いに驚き、枕元の刀を取ってその線を断ち切ると、たちまち上の格子から落ちるものがある。よく見れば紛れもない妻の首であった。妻は抜け首であったのに、自分は早まって無実の妻を殺したと悔いたがどうしようもなく、急死したと世間に披露して事は済んだという。
原典より
今より三十余年余り前は、新小路の西の端、北側何某の宅は、街に沿ひて建ち、障子ありて街に臨みたり。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。