柱野の百姓、化物に子を取らるる事
どんな伝承か
柱野という所の百姓が、十歳ばかりの子を連れ、大雨の夜に田の番小屋へ入り、親子二人で猪を追っていた。夜半過ぎ、小屋の脇に何とも知れぬ者が来て、雨宿りに端を貸せと言う。狭いから駄目だと断ると、その者は力が強くて動かない。よく見れば髪も顔も手足も真黒な大坊主で、目は鏡のように光っていた。大力の親父が組み合い、ついに化物を外へ突き倒すと、以後は音もしなかった。だが俄に辺りが暗くなって恐ろしくなり、子を連れて帰ろうとしたが道が見えないので、杖を伸ばして子に掴ませた。途中で杖が軽く感じられ、子の名を呼んでも前後にいない。松明を灯しても見えず、人を雇って探しても見つからず、化物の仕業だと悲しんだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。