或小者、両怪に逢ふ事
どんな伝承か
夜半過ぎのころ、ある小者が錦見の的場小路を通っていると、向こうから提灯を持った大坊主が二人現れた。この者は心が剛く、そのまま脇差で提灯を切り落とすと、二人の坊主は怒る気色を見せた。小者が高声に弥陀の名号を唱えると、両僧は「さすが奉公人だ」と感心して消え失せた。小者はそのまま宿へ帰ったが、その後は物が言えなくなり、七、八日ほどしてようやく口がきけるようになって、かくかくしかじかと語ったという。
原典より
夜半過る頃、錦見の的場小路を通りける処に、向ふより大坊主二人、挑燈を持て顕はれ来りけり。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(編:藤田葆/増補:今田純一/付録:静間密)・天保年間成立・明治期増補(原本明治四十三年成稿)/昭和51年(1976)岩国徴古館刊)
岩国藩士・広瀬喜尚(仁兵衛、天保頃の博識家)がまとめた郷土怪談集を核に、明治期に今田純一(散木園主人)が二十余条を増補(追加)し、さらに藤田葆が古老聞き取りの『続怪談録』・歴史的瑞兆を集めた『実事談』・幼童の変死記録を集めた『変死部』を継ぎ、巻末に静間密の怪火・投石怪五話を付録とした、岩国・錦見・横山周辺を舞台とする総合怪異録。