飯盒を呼ぶ桜寮の古井戸
どんな伝承か
終戦から間もないころ、宇都宮市の郊外にある宇都宮地方貯金局桜寮へ一家で移り住んだ人の話である。そこは旧宇都宮師団の練兵場と兵舎の跡地だった。寮の入口のあたりに古井戸があった。井戸はほかにもいくつかあり、入寮者は炊事などに使っていたが、この入口の一つだけはなぜか使われず、つるべの金具は錆び、蓋も閉じたまま朽ちるにまかされていた。古参の入寮者によれば、兵舎だったころ、昼食後に飯盒を洗っていた兵が誤ってそれを井戸へ落とし、軍の物を失った罰を恐れて、その晩身を投げたのだという。以来、夜になると井戸の底から「はんごう」と恨みのこもった声が聞こえるといわれた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 軍隊』を小話単位で全712話収録。徴兵・新兵・上官・戦地・戦争の残虐・敗戦・収容所・軍隊の怪談など、軍隊と戦争にまつわる兵士たちの現代民話を全国(一部は戦地・海外)から採集し話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明189話・市区町村判明76話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。