水田に一本だけ残された後藤野の柏
どんな伝承か
北上市和賀町にひらける後藤野は、前九年の役の古戦場と伝えられ、戦時には陸軍の飛行場が置かれ、戦後は開拓団が入って水田に変わった土地である。その広い田の真ん中に、柏の大樹が一本だけ異様な姿で立っている。四百年ほど前、是信房という高僧がこの地で布教して穏やかな村を開き、野の四隅に柏を植えて柏村と呼んだ、という言い伝えがその由来だという。昭和三〇年頃、湯田ダムの完成に伴い、一帯を三千ヘクタールの水田に変える国営の開田工事が始まった。誰の田に入っても邪魔になるとして木も切られかけたが、和賀川土地改良区の理事長高橋藤八が残すよう主張し続け、柏は今も一本きりでそびえている。この野はかつて蜃気楼の出る「狐だて」としても知られた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考・昭和〜平成)