旅籠で坊主に斬りかかり自害した飛脚
どんな伝承か
享保九年、守山領御代田村の与衛門は中間として抱えられていた。十一月四日、用向きで江戸へ上る途中の宿で仙台の者二人と相宿になり、翌日に喜連川で泊まった宿でも、また同じ二人と一緒になった。その夜十時ごろ、与衛門は脇差しを懐にして台所へ行き、居合わせた宿の主人の伯父で祐監という坊主に湯を求めた。祐監が印籠の薬を出しながら湯を渡すと、与衛門はいきなり斬りかかった。騒ぎになると、自ら首に刃を深く当てて表へ飛び出し、守山の飛脚だが仙台者に付け込まれ御用状箱を荒らされては面目が立たぬ、誰か殺してくれと叫んだ。手当てのかいなく息絶え、守山と江戸の役人の調べで乱心による自滅と決まった。
原典より
すると突然、与衛門は脇差しをぬき祐監に切りかかった。—— 疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情(昼田源四郎・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情(昼田源四郎・1985年(昭和60年))
『疫病と狐憑き-近世庶民の医療事情』は、精神科医の昼田源四郎が昭和六十年に著した、江戸時代の村の医療を描く本である。奥州守山領(現・福島県郡山市の一部)の『御用留帳』を主な史料に、村人の暮らし、医師と医道修行、疫病と祈禱、湯治、乱心と狐憑き、受刑者の治療、行倒れの継ぎ送り、間引きと養育手当などを、書き下した原文を引いて跡づける。序と凡例、全八章、あとがき、注、索引からなり、発行所はみすず書房である。