海から見守る父と高台の母子
どんな伝承か
震災の年の五月、著者は宮城県南三陸町を訪ねた。町を見下ろす高台に上がると、幼い子の手を引いて、壊れ尽くした市街を眺める母親とすれ違う。振り返れば、夕暮れのなかで瓦礫が黒く長い影を引いていた。まだ就学前と見えるその子が、どうして家に帰れないのか、どうしてお父さんはいないのかと尋ねる。母は、家は壊れてしまったのだと答え、父はもうお前だけの父ではなく、海の中から町のみんなを見守る人になったのだ、だからおもちゃは買ってこられないけれど、もっと大きなものを用意してくれているのだと語った。母は泣いていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介・2011年以降(東日本大震災関連))
震災後の不思議な話(三陸の怪談)/津波の死者の霊・幽霊/地震の予兆(井戸の水)/タクシーに乗る幽霊/震災の鎮魂と怪異