木造駅で汽車を黒い山と見た男
どんな伝承か
昭和三年七月、青森県の北部に五能線が開通した。当時の農家では汽車を見たことのある者がほとんどおらず、いちばん近い駅までも片道六里半、往復十三里の道のりだったから、老人には開通式の見物も無理だった。車力村の千貫にいた二十四歳の千田林次郎は、友人たちと朝早く起き出して木造駅へ向かった。八時ごろ、煙を吐きながら汽車が入ってくる。その大きさと速さに、林次郎は黒い山が自分めがけて突進してくると思い込み、真っ青になって気を失いかけた。介抱されてようやく家まで送り届けられ、以来この一件は笑い話として語り継がれている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考・1990年代初期(平成初期))
松谷みよ子『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』を小話単位で全550話収録。心霊写真など写真の怪と、文明開化期の怪異にまつわる現代の民話を全国から採集し収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明496話・市区町村判明377話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。