オイヌサマの功徳
どんな伝承か
なに左衛門という人の家では、身延のずっと奥までオイヌサマ(狼)の絵を借りに行く習わしがあった。屋敷や家内安全を守る神とされ、額の絵に一日一度塩を供えると、いつの間にか塩がなくなったという。おじいさんが喉に魚の骨を詰まらせ息も絶え絶えになった夜、嫁がオイヌサマに小皿の塩を供えて祈った。提灯を灯して玄関を開けると、外に子牛ほどの真っ黒な影が立っており、驚いて逃げ帰った。やがておじいさんは楽になり、オイヌサマが喉を撫で骨を落としてくれたのだと家の者は語り合った。おじいさんは後日、身延の奥まで礼のわらじを何足も作って納めに行ったと伝わる。
原典より
それから、その家の人たちが側に行ってみたら、なんでかオイヌサマが喉をなで落して骨を落してくれたっていうんですって。—— 井戸の民俗――山梨県北都留郡上野原町棡原(民俗調査報告 第6号・民俗調査報告) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井戸の民俗――山梨県北都留郡上野原町棡原(民俗調査報告 第6号・民俗調査報告)
『井戸の民俗――山梨県北都留郡上野原町棡原』は、棡原の井戸地区で行った民俗調査の報告で、民俗調査報告の第六号にあたる。この写しは寺院の項の途中から始まり、長泉寺・観昌寺を『甲斐国誌』や『北都留郡誌』などでたどったあと、クモ・夢見・イエギツネ・キツネ火などの俗信と民間療法を収める。口承文芸の章では狼報恩などの昔話、親鸞上人の伝説、笑い話・なぞ・わらべうたを掲げ、昔話と伝説には話者の名と生年、解説を添えるが、写しはわらべうたの途中で終わる。