囲われた部屋に現れた老婆の霊
どんな伝承か
新聞記者である筆者が、仙台の連心寺櫻恩寺の一室に起居していたことがある。夏の夜の二時頃、隣室の障子を開けて便所の縁側へ下りようとした刹那、一人の老媼が自分の前に跪き、何か言おうとするのを見た。白衣蓬髪のその姿は、一瞬のうちに空中へ消えた。不思議に思いながら用を済ませて部屋へ戻り、一睡した翌朝、門前の者が訪ねて来た。昨夜二時、前々住職の妾であった老婆が、寄る辺なく来宿していたが老病で亡くなったので、住職の墓の側に葬ってほしいと言う。その老婆が囲われていたのは、筆者の寝ていたその部屋であった。それで昨夜の老媼の正体を知ったのだという。
原典より
予(新聞記者)が仙台町連心寺櫻恩寺の一室に居たりし事あり、夏の夜二時頃隣室の障子を開けて便所の縁側へ下りやうとする刹那、一老媼の予の前に跪まりて、何事か云はんとするを見し一瞬間に白衣蓬髪の老媼は早や空中に其影を消した。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。