戦死した兄の声が救った班
どんな伝承か
福岡県三井郡大刀洗町での昭和二十年ごろの話である。米軍機の空襲が激しくなり、部隊の兵舎も何度となく爆撃を受けた。ある日、避難命令が下って班は一キロほど離れた山里の小高い山を目指したが、途中で班長が松林に待避せよと命じた。そのとき、三年前に中支で戦死した兄が、山の中からしきりに自分を呼ぶ声を聞いた。私は夢中で「ここは危ない」と叫び、班長の命に背いて山へ向かった。皆も後に続いて山へ辿り着き、空襲を免れた。戻ってみると松林は根こそぎ吹き飛び、火に包まれていた。兄の声が大勢の命を救ったのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 軍隊』を小話単位で全712話収録。徴兵・新兵・上官・戦地・戦争の残虐・敗戦・収容所・軍隊の怪談など、軍隊と戦争にまつわる兵士たちの現代民話を全国(一部は戦地・海外)から採集し話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明189話・市区町村判明76話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。